2023.03.30

そこに「樹」があるのに

REPORT01
兵庫の「木」と「樹」をめぐるストーリー

遠く海外の木材を使うことの違和感。
自分の思いに向き合い、
「樹」と誠実に向き合い始めた木工作家の挑戦。

 椅子作りの木工作家として、国内でも有数の実績を持つ迎山直樹。生まれ育った佐用町に工房を持ち28年になるが、ある違和感を持ち続けていた。「工房を訪れるお客さんに『材料の木があるから、ここに工房があるんですね』と言われるが、実際は海外から輸入した木材が材料。外国産の広葉樹は規格も均一で材料として使いやすかったが、何となく後ろめたい感覚がずっとあった」と話す。

工房併設のギャラリーにて迎山直樹と製作スタッフ
「自分の手と目が届く範囲で」数を作らないスタンスについてはスタッフの人数も同じ。


 そんな時、地元佐用町の森林で、自ら手鋸で木を切る機会があった。「切り口から水が滴る木を見て、その生々しさに、『材料』として見ていた木が命のある『生きもの』であることを見せつけられた。材料の『木』ではなく生きている『樹』であることを実感した経験だった。『樹』を自分たちの都合で『材料』とする以上、もっと手にかけて大切にしないといけないと思った」。


 2019年には、県下の家具作家が集う「一脚展」にも参加。六甲山材で椅子を作ることで、地域材を使うことにも目が向き始めた。

 「これまでやってきた椅子作りは次の世代に引き継ぎ、これからはこの佐用町の『樹』を育てて活用することをライフワークにしたい」といい、近く別会社を設立、これからの人生を新しい挑戦に捧げる。「例えば節があれば個性として捉える。通常は使い物にならない虫喰い材も、その風合いを活かして唯一無二の作品にする。これまで避けてきた針葉樹も、固定観念に縛られずに使っていきたい」とも話す。迎山のネクストステージは始まったばかりだ。

取材:2022年2月

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