2025.08.22

「ひょうごの木」を考える Vol.05

 「ひょうごの木」を考える Vol.05 

マニュアル化が出来ない、木でおこなう焙煎・発酵

ー自然の不確実性ー

「なんか関係ありそうですよね、『人』と『火』」(松崎裕太)

松崎裕太「木を扱っているとキャンプが好きな人とよく会います。キャンプのなかでも、やっぱり『火』。真夏でめちゃくちゃ暑い中でもたき火する人、たき火オタクみたいな人が結構いて。僕、木工屋なんで、そういう人にめちゃくちゃ語ってもらうんです、『自然な火の揺らぎはやっぱり木じゃないと』って。特に広葉樹がいいらしいです。全然木に興味がない人でも、火を見るのは好きな人って多いと思うんですよ。なんか関係ありそうですよね、『火』と『人』っていうところ。YouTubeではたき火のパチパチ音が無限に流れるライブ配信があって、僕も見るんですけど、何か不思議な感じがします。それは木以外の、他の材料じゃできないことで」


有田佳浩「コーヒーの焙煎にも繋がってきそうな気がしますけどね」

「個性を組み合わせてひとつのものをつくると、固有のものになるのかな、と」(萩原英治)

有田佳浩「萩原珈琲さんの、珈琲豆を国内の樹木の炭で焙煎する『アナログ』っていうコンセプト。こう言っては何ですが、“めちゃくちゃ面倒くさい”ですよね。効率的ではない中で、豆や炭の声を聞くような特別な瞬間はありますか」


萩原英治「そうですね、珈琲の焙煎には、6産地から計6種類ほどの樹木の炭を仕入れておりまして。それぞれの炭の特性・火持ちのよさ・火力の上がりやすさ・逆に火の着きにくさ、など、いろいろあります。それらを混ぜて、ひとつの温度を作っていくっていうところでは、木の面白さが存分にあるのかなと思いますね。ガス・電気だと、レバーひとつとコンピューターで制御しちゃえば簡単にできてしまうので。個性を組み合わせてひとつのものをつくり上げると、固有のものが出来上がるのかな、と思います」

有田佳浩「お仕事としては、効率的ではないけれど。“非効率”ゆえの幸せや面白さも、ちょっとあったり?」

萩原英治「はい。珈琲自体が農作物ですし、その日の気温・湿度・炭の含水率もそうですけども、1回1回の火づくりに対するアプローチっていうのは、非常に職人仕事なところがありまして。マニュアル化できないというか、『今回のロッドはこう焼こうか』というような話し合いすら出来ず、1回1回が勝負なんですよね。どの木を最初にどれぐらい入れたから、次にどれぐらい足そう、みたいな。答えがないといいますか、最適なアプローチを自ら選択していく自由度の高さ、余白のところでどう遊んでいくか、というところが、私たちの技術力というか。そこで楽しさを感じているというのが、本当のところかなと思っています。それがいろんな樹木を切って山を整備してもらう動機にもなりますしね」

「不確実性というか、何か説明出来ない魅力があるのかなと」(濱木大輔)

有田佳浩「酒造りではどうですか」

濱木大輔「酒造りには発酵という工程があって、その際に使うタンクは、金属やプラスチックが管理しやすいんですよ。薬品を使い、一気に菌を殺して、そのあと酵母菌だけを入れるので管理しやすいんです。一方で、タンクに木を使うと、木に棲みついた乳酸菌だとかいろんな野生の菌がいて、どんな発酵が起こるかわからない。珈琲の炭火と似てるかなとも思うんですけど、これが酒造りのマニュアル化ができないところでして。ここ10年ぐらいまでは、徹底的に菌を排除して、清潔なところでお酒を作るっていうのをやっていたんですけど、最近ちょっと昔に戻ろうかみたいなところがあって。そうすることで、本当に個性豊かなお酒が出来るんです。不確実性というか、何か説明できない魅力があるのかなと思います」

松崎裕太  木育インストラクターで木製玩具等を販売する(株)松崎の取締役

萩原英治  炭火での焙煎にこだわる萩原珈琲(株)の4代目

濱木大輔  酒づくりの技術・文化の伝承に取り組む(株)西山酒造場社員

有田佳浩  多くの企業の広報制作にも関わっている県広報プロデューサー

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