「ひょうごの木」を考える Vol.04
自分と違うマテリアルを“想う”ことが、
育むもの
ー子どもと木ー
「子どもたちの何とも言えない表情に出会えて、テンションが上がる」(山下孝平)
有田佳浩「山下さんのHITOTOという構造体──子供たちが野外イベントなどで遊んでいるジャングルジムのようなあれは、木でないと成立しないものですか?」
山下孝平「恐らく概ね、イベントって『大人向け』なわけですよね。大体、親を集客するためのコンテンツがあって、そこに子どもたちが連れて来られ、親子での参加になる流れが多いと思うんですけど。そうなると子供たちが暇を持て余して、大人向けのコンテンツを楽しめない時間があることも。でも、そこに何かが素材として置かれていて、自由にこれを使っていいよっていう状態を作って、僕らが遊んでいると、子どもたちも使っていいんだと思って勝手に遊び始めるんですよ。子どもって木の棒があったら振りますし。木原さんがさっき、会場で配ってくれた木のバームクーヘンみたいなのがあると転がすし。ルールも何もない状態から自分たちでルールを作っていって自然にコンペが始まる。僕らは単にそのきっかけとなるような装置みたいなのを投入して、彼らがコンテンツを作っていけるような状態を用意するっていうのが面白いところかなと思ってまして」
有田佳浩「そういう子どもたちの遊ぶ姿を見ていると、やっぱり楽しいですか」
山下孝平「そうですね、子どもたちが楽しそうだと僕たちもすごく楽しいんですけど、『その遊びが実は誰かの役に立つよ』っていうアウトプットを教えると子どもはもっと喜ぶんですよ。たとえば、僕らは野外イベントで大人たちが休むための日陰用のテントとか、ステージとか、いろんなものを作っていくんですが。子どもたちにも木材を渡して、これとこれを組み合わせて上に天板を置けば、みんなが休めるベンチみたいなものができ上がるよ、と話すんです。すると、子どもたちは最初、自分が作ったものを手放すのを嫌がるんですけど、いざ手放して5分ぐらい眺めていると、他のお客さんたちが座り始めるんです。その瞬間の子どもたちの何とも言えない顔が、僕らの一番テンションあがるポイントかなって」
「木は、常に“利他”だな、と」(小池陽人)
小池陽人「私、今のお話を聞いていて、木の魅力ってなんだか“利他的”だなと思いました。我々はすごく利己的に生きておりますけど、木は全部ね、二酸化炭素を吸収して、酸素を出してと、常に利他だなと。そういうところも我々が木を見つめることで、生き方を見つめ直すヒントになるんじゃないかなと思います」 有田佳浩「確かにそうですね。子供たちが、“こうすると誰かが喜ぶよ”っていうところにめっちゃ喜んでいる。木の利他的なところに作用されて、それを使った人間がちょっと利他的になれる可能性があるのかなと、そんな感じがします」
「子どもたちが木に触れることで、世界平和にまで繋がるかもしれない?」(有田佳浩)
加藤貴章「あの、私、漢字の『想う』という字が非常に好きでして。あれは木を見つめる様子を描いていて、中国から入ってきているんですけれども。木を見つめ心に浮かぶ感情のこと──つまり、自分と違うマテリアルである木について、結びつきを感じる瞑想の状態を言うらしいんですけども。その“想い”の意味合いが日本で使われているのは、古代中国の人たちへの共感があるからなんだろうなと。これって古代の中国人と日本人が繋がっているだけではなくて、現在の世界中の人たちが、同じ感覚を持っているんじゃないかなと思っていて。さっきの木を触ってないとイライラするっていうお話(https://hyogo-no-ki.jp/column/creation-base-vol-02/)、ああいう感覚って世代を超えても理解できますし。ひょっとすると木の無い国だと、ある意味もっと理解できるのかもしれないと思っていて。誰かが木を育てたり、見つめたり、使うっていう、その心を育んでいくことは、大きい言い方かもしれないですけど世界平和にも繋がるんじゃないかな──というのはちょっと期待しておりまして」
有田佳浩「子どもたちが木に触れることで、世界平和にまで繋がるかもしれない?という。昔は、学校の机も木でしたよね。私が小学生の頃はキリで穴を開けたり相合い傘を書いたり、ボロボロでした。ああいうイタズラ文化なんかは、なくなっているんですかね」
松崎裕太「ここ2年でちょっと増えていますよ。大手メーカーさんがムクの木の天板をカタログに載せるようになったので。某有名企業も、オフィス企画でわざと無塗装のスギ天板を『日本の木のシリーズ』として販売しています。納品した直後にはもうすでにキズまみれになっているんですけど。でもそれがいいとの声があって、オフィスの休憩室用などに結構売れていたりとか」
能口秀一「最近は、学校の机を本物の木にどんどん切り換えていくムーブメントもあるんですけど。使う人が木のメンテナンス経験を持っていないと綺麗に使っていけないというか、時間が経って風合いが出て、いい味が出てくるみたいな使われ方にならないんですよね。たとえば小学校の内装を木にしたときに、先生も子どもたちも木の扱いがわからなくて、すごく早く痛めてしまうことがあります。逆に、塗装すらしていない木にした小学校が、ちゃんと掃除の仕方を教わった先生や生徒がいると長持ちさせている。正しい手入れ方法を伝えていくことができなくなってしまうと、使い方も変わっちゃうんです。だから、やっぱり便利なんですよね、手入れの方法を学ぶ必要がないものって。そういう便利さを優先するから、木を使って暮らしをちゃんと成り立たせる、身近な素材を使える人たちが途絶えていっているんじゃないかと思うんですよね」
山下孝平 木製テントhitotoを製造販売する(同)大山井の代表取締役
小池陽人 YouTubeで人気の法話を配信する大本山須磨寺の寺務長
加藤貴章 樹でできた糸と布で「森をまとう」縁樹の糸の代表
松崎裕太 木育インストラクターで木製玩具等を販売する(株)松崎の取締役
能口秀一 木材コーディネーター育成にも取り組む製材所(有)ウッズ代表取締役
有田佳浩 多くの企業の広報制作にも関わっている県広報プロデューサー
- 「ひょうごの木」を考える https://hyogo-no-ki.jp/column/creation-base-vol-0/